創業130年を超える機屋の挑戦「サウナハット&マット」

134 年の歴史をもつ福井県の跡取り娘のチャレンジ

速乾性と防熱性に優れた生地の特性を活かして

サウナハットとサウナマットを開発

地域を盛り上げる、妥協のない技術とひらめき

明治23年創業の織物メーカーである松文産業。国内の大手繊維メーカーを主な取引先に、福井県の本社以外に全国に3つの支店をもつ。そんな創業100年を超える歴史ある松文産業は、常に新しいものに目を向け作り出すDNAを大事にしてきた。今回は、従業員が試作した段ボール風の生地”DAMBOLONI®”から生まれた新商品、その商品化への道のりを聞いた。

創業100年を超える機屋の挑戦

織物製造業の会社として明治23年に創業、今年で133年目になる松文産業。今現在、ポリエステルを中心とした合成繊維を主に取り扱っており、福井県の勝山市にある本社のほか、山形県の鶴岡市、滋賀県の栗東市と計3ヶ所拠点を設けている。撚糸(ねんし)という、糸に撚(よ)りをかける工程に必要な設備としては、国内ではおそらく一番の保有数の会社といえる。手掛けるのは、フォーマルなスーツをはじめワーキングユニフォーム、メディカル系のナース服等で、中でも厚手の生地を得意としてきた。昨今アジア国内に同業種の工場が増えていくなか、国内の繊維産業が厳しい環境であるのは事実。「数ではなく品質を保つこと、そして、新しい開発をしていくことが、この先の私たちが生き残る道かなと思っています。」と松文産業 代表取締役の小泉綾子氏。

景気の良い、一番華やかな時代に松文産業で働く祖父や父を見て育った小泉代表。その後、父親がシステム開発の会社で働くために埼玉県に引っ越しをしたものの、10年後再び戻って、松文産業で働くことに。現場の仕事を手伝ううちに仕事への責任や愛着が自然と芽生え、会社を継ぐことになったという。常に考えていることは、社員とその家族のこと。そして、良い商品は、良い会社からこそ生まれる。「社員の、そしてその家族の皆さんの生活がより豊かになるように日々考えています。自分の子どもを入社させたいと思うような会社にしていきましょうね、と話しているんです」と、小泉代表。面白いものがあったら大いにやってみたらいいという自由な発想を大切にする会社の方針も、社員を信頼しているからこそ。小泉代表は語ります、「あの人に着てもらいたいな。自分の家族やお友達が着てくれるものになるんだ。そんな風に、大切な誰かを思いながら物を作るとやっぱりいいものができるんですよ。」

会社全体で楽しみながら試作に取り組んだ、サウナハットの制作舞台裏

コンシューマー向けに商品開発するその背景には、数年前のコロナ禍で突如生まれた「時間」がある。それまでは、日々お客さまからの注文の開発に追われる毎日だったが、コロナ禍で時間的な余白が生まれるなかそれを悲観するのではなく、せっかくだから自分が作ってみたいものを作ろう、面白い開発をやってみようと、思考の転換を図ったのだ。そこで、それとなく机の隣に置かれていた段ボールと同じ構造を生地でも作れるのではないかと実験的に誕生したのが、この段ボール風の生地”DAMBOLONI®”。自分たちが培ってきたいろいろな知識であったり、開発の技術が試された瞬間であり、「現場側の親方衆も、俺らがやってやるとそういう心意気で楽しみながら頑張ってくれた結果、面白い生地ができたんです。」と小泉代表。構造の幅であったり、どういう糸だと、一番うまくその構造が出るかというのは、いくつも試作を繰り返したという。「コロナ禍は大変だったけれど、会社のみんなで試行錯誤する時間を持てたというのはすごくよかった」と振り返る。

この生地をどう活用するかと考えるなか、良いご縁が巡ってくる。それは、地元の福井大学との産学官連携事業のプロジェクトで新しい商品を開発するというものだ。”DAMBOLONI®”は新しさだけでなく、通気性、吸汗性、速乾性などの機能性も高い。そして、アウトドアやサウナ好きだという学生たちとの議論の中で、「自分が欲しいもの、楽しいと思うものに関係するものが良いのではないか」と、福井県の観光推進にもフィットするサウナハットの試作が始まった。汗ジミが目立たぬようあえて生地は濃い色にし、厚みがありながら軽く、頭にフィットする形状。

また、生地の特性上、糸くずが出にくいため、排水管の詰まりが発生しにくく環境にも優しい商品。合わせて、折りたたむことのできるサウナマットも制作し、帽子も中に収納できるようにした。機能性が高く、シンプルなデザインでセットでの持ち運びも簡単。製作過程においても妥協がない、まさに技術と新しい試みが合致した商品が誕生したのだ。

地域を巻き込んで、福井のものづくり、観光に貢献する取り組みに

松文産業では、このサウナハットを皮切りに、福井のものづくりの良さをアピールする新商品を開発していく計画がある。加えて、今後の北陸新幹線の延伸に合わせて、福井県の魅力をアピールしていきたい。地域が元気になることは、そこにある技術を守ること。大切なものを守るためには、止まっていてはいけない。今後は、福井県鯖江市で有名な産業である眼鏡と合わせて、サウナに合うような眼鏡の開発などにも取り組んでいきたいという。このほか、ダウンのような新素材を使った商品も海外向けに展開する予定も検討中だ。「こういうものができるんだというプライドを持って、社員の皆さんと何よりも楽しんでやっていきたい」と小泉代表。どんなときも、社員、その家族への想いは忘れない。歴史ある企業が率先してチャレンジを続け、地域全体を盛り上げていきたいという、その勢いは止まらない。

松文産業株式会社 小泉綾子さん